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特集:障害者権利条約 衆参両院で承認!「差別解消法」中身作りはこれから
東俊裕さん・崔栄繁さんに聞く 聞き手=ぷくぷくの会 宇都雪人

昨年月4日、参議院本会議で、国連「障害のある人の権利に関する条約」(以下「権利条約」)の批准が承認されました(衆院は月承認済)。今年早々に、批准手続きは終わるものと思われます。

日本は、この権利条約に2007年9月に署名していましたが、条約批准を実りのあるものにするため障がい者制度改革をスタートさせました。2011年に「障害者基本法」改正、2012年には「障害者総合支援法」が成立、そして昨年6月の「障害者差別解消法」の成立で、今回の条約批准の承認につながりました。

「障害者差別解消法」は、障がいを理由とした差別禁止を目的としています。

この法律の施行(2016年4月)までの2年間で、内閣府が「基本方針」を、各省庁が「差別や合理的配慮のガイドライン」を作ることになっているので、法律の中身は、これから作り上げていくことになります。

昨年12月16日、大阪市東成区民センターで「障害者差別解消法 理解・啓発促進セミナー」が行われました。同セミナーで講演された東俊裕さん(内閣府障害者制度改革担当室長)と、崔栄繁さん(DPI日本会議事務局員)の報告と合わせ、私たちが地域でどういう取り組みができるのか、聞きました。(文責・編集部)

自治体での条例作りが鍵

宇都…「障害者差別解消法」の成立で、3つの法律が整備されましたが、残された課題も多いと思います。これから私たちは、地域でどういう形で運動を進めていったらいいのでしょうか。

東…すでに欧米やオーストラリア・ニュージーランド・韓国など世界の多くの国では、障がい者への差別を禁止し、日常生活や社会生活を送る上での機会の平等を保障する法律があります。しかし、日本では障がい者への差別を禁止する法律については、なかなか実現しませんでした。

「差別解消法」の国会付帯決議では、いわゆる上乗せ・横出しの条例を作ることが可能とされています。これは自治体の条例に大きな期待がかけられているということです。

また、政府の「障害者政策委員会」は、障がい者施策の進捗状況を監視する責務を負っていますので、地域の課題を、政策委員会を通じて国の政策に反映させていく、という動きが障がい者団体に求められているでしょう。

「障がい者差別はいけない」と、ほとんどの人が思っています。でも「じゃあ、何が差別になるのか」と中身の話になった時に、その判断基準が多くの人たちの間で共有されていない現実があります。私は、弁護士をやっていましたから、「差別を受けた」という相談を受けたことがありますが、その差別をした人と話をすると、「私は障がい者のことを思ってしたことなのに、どうして差別になるのか」と憤慨されるようなこともありました。

ですから、差別禁止部会では、「法律で何が差別になるのか、分かるようにすることが大事」という議論がされましたが、これからは、何が差別なのか、障がい者団体が、地域に広めていくことも重要です。

障がい者差別をなくしていくための課題は、まだまだ残されていますが、まずは、第一歩を踏み出したというところです。

崔…地域での条例作りとも関連してくるのですが、具体的な事例を集めて検討するとか、いろんなことができると思います。

「障がい者の暮らしやすい街は、障がいのない人にも暮らしやすい街」とよく言われることですが、その意味でも障がい者差別の問題を障がい者だけの問題ということではなく、他の市民へ訴えるターゲットを広げ、一緒に議論していくことができれば、それは地域作りにも役に立っていきます。

2年後の施行〜見直しにむけて

宇都…2011年に、障がい当事者・関係者人の総意でまとめた「障害者総合福祉法骨格提言」が、「障害者総合支援法」には全く反映されていません。「差別解消法」についても、同じことが起こるのではないかと不安なのですが…。

東…「差別解消法」施行後3年経過した時点で予定されている、内容の見直しについては、障がい当事者をはじめ、広く意見を聞いて、議論されていくことになるでしょう。施行〜見直しに向けて、皆さんの積極的な議論を期待します。

崔…「障害者総合支援法」の見直しについては、力を入れてきた点なので、これはもう声を出し続けていくしかないと思っています。

これからも私たちの声がきちんと反映された法律や制度を求めていくことは、大事です。ただ、それと同時に形になった法律を、きちんと活かしていきながら、不十分なところは変えていく、というスタンスも必要だと思います。

宇都…「障害者総合支援法」の残された課題の議論はどこで行われるのでしょうか??

東…障害者政策委員会は、政策・制度を作る機関ではなく、施策の監視機関です。ですから、福祉サービスの具体的な施策が、基本計画から見て、どれだけ進んでいるのかどうか、という形で議論し、意見を述べるという形になっています。

宇都…「差別解消法」では、紛争解決の新たな救済機関の仕組みがありません。これから私たちは民間事業者にどこまで「合理的配慮」を求めていいのか、迷ってしまうのですが…。

東…これまでも役所などに相談窓口がなかったわけではありません。しかし、そうした既存の機関は、障がい者からの相談に対してうまく対応できませんでした。そこで、差別解消法は、そうした事例に適切に対応できるように、行政など既存の機関がきちんと体制を整備することを求めています。

合理的配慮については、先ほど述べたように「差別解消法」施行後3年経過した時点で、現状について検討し、必要な見直しが行われることになっています。

宇都…私も居酒屋などよく行きますが、たまにお店と言い合いになることもあります。障がい者への理解のないところでは、事情を聞いてもらえないことも多く、裁判所のような救済機関がないと、実効力はあるのか、と疑問に思います。

東…これまで差別にあった障がい当事者の多くは、泣き寝入りを強いられてきました。「差別に遭ったら、立ち上がって一人でも闘う」という人は少ないし、直接交渉した時も、ケンカ腰になったり、なかなかうまくいきません。いきなり裁判で解決するのも難しいですから、「解決のための仕組みを作るべきだ」というのは当然の声です。ただ、「地方分権」という制約もありますので、今の形に落ち着きました。そこを条例で補うなどして、より実効性のあるものにしていかなければならない、と思います。

崔…私は、政府から独立した救済機関は必要だと思います。諸外国の実例を見ると、1つの機関が受付から調停・勧告から是正命令までできるものまで色々ありますが、一括して問題を扱える機関があった方が、制度の「使い勝手」が違います。

そうした救済機関は、すぐにはできないでしょう。時間はかかりますが、地域での実情調査や取り組みを積み重ねることで、国や法律を動かしていく、というのが今考えられるやり方だろうと思っています。

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