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新聞の作り方110:脱原発」が争点となった東京都知事選 石塚直人

東京都知事選(2月9日投開票)の行方が混沌としてきた。連休明けの1月日、「原発ゼロ」を掲げる細川元首相が立候補を表明し、小泉元首相が全面支援を約束したからだ。猪瀬前知事の突然の辞任から約1か月。自公が推す舛添元厚労相の圧勝とみられていた構図は一転した。

これは細川氏対舛添氏の闘いであるとともに、小泉氏対安倍氏のそれでもある。昨年夏以降、小泉氏は自民党の原発政策に対し批判を強めてきた。一方、安倍氏は原発の再稼働・輸出に前のめりで、政治上の師匠だった小泉氏の提案を無視。細川・小泉両氏は、靖国神社参拝に象徴される安倍氏の「戦後見直し」姿勢にも批判的だ。

両氏の連携を最初に報じたのは1月4日発売の「週刊ポスト」だった。新聞では朝日が9日朝刊、毎日が同日夕刊で、細川氏が「候補者として浮上」「立候補を検討」と一面で書いた。いかにも好意的なニュアンスは、両紙が脱原発の立場だからだろう。原発推進論の読売は10日朝刊で「出馬の可能性が注目されている」と初めて報じたものの、扱いは二面で、朝毎に比べ冷ややかな筆致が目立った。

13日の読売社説は、「脱原発だけに焦点をあててはならない」と言い切った。原発は国のエネルギー政策の根幹で地方選にはなじまない、五輪への対応や高齢化、地震対策など課題が山積している、との理由による。一方、日の毎日社説は「原発も大きな争点だ」とし、併せて他の重要課題での議論も求めた。同日の朝日は「意義がある」、産経は「(都知事選を)脱原発主張に利用するな」とした。

批判精神を取り戻せ

権力の暴走をチェックすることがジャーナリズムの仕事の1つだと考える私にとって、政府にタテをつくなと言わんばかりの読売・産経の社説には違和感がある。それが結果として「民」の生存権を掘り崩すことにしかつながらないことは、歴史をきちんと学んだ者なら常識だろう。

小泉氏はかつて郵政民営化のワンフレーズで圧勝し、社会の格差を大きく広げた。その「罪」を知る者としては、小泉氏が脚光を浴びることで、弱者救済に生涯をかけてきた宇都宮健児氏のような候補が埋没してしまうことに寂しさを禁じ得ない。とはいえ、小泉氏の覚悟は本物だ。テレビも含むマスメディアに本来の批判的精神が欠けた現状では、混戦になったこと自体を喜ぶしかないのも確かである。

仮に細川氏の立候補がなかった場合、原発問題は選挙報道でほとんど扱われることなく終わっただろう。五輪を軸に、読売が書くような舛添氏寄りの政策ばかりが紙面を埋めることになったと思う。それでは安倍政権への白紙委任以上の成果は望みにくい。

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