特集:STOP! 精神科病棟転換型居住系施設!!もうこれ以上、病院や施設生活はいやです
障がいのある人も、地域をつくる市民のひとり
精神科病棟転換型居住系施設とは、病院内の病棟を介護型施設、宿泊訓練、グループホームやアパート等に転換するというものです。病棟を丸ごと生活(居住)施設に切り替え、そこに移ったら退院したと見なすことで、多すぎる病床や隔離処遇への国際的な批判をかわすとともに、病院の経営安定をはかるというものです。
一石二鳥・三鳥を狙うような政策ですが、「退院」後の生活の場は病院の敷地内にとどまるので、入院患者を引き続き病院にとどめるような誤魔化しの政策です。数字上は35万床の精神科病床は削減され、地域移行が進んだと見なされるので、実態の伴わない見せかけの政策と言えます。DPI日本会議全国集会(第30回・静岡)参加者は、6月15日に緊急アピールを発表して白紙に戻すよう求めています。
病院の敷地内で暮らすことは、到底「地域移行」とは言えませんし、障がい者権利条約19条「特定の生活施設で生活する義務を負わない」にも反する政策です。今号では、病棟転換型居住系施設の問題点を整理し、どうあるべきか考えます。(編集部)
世界1多い日本の精神病床数
日本の精神科病床数は、全世界の5分の1を占めることを、ご存じでしょうか? 世界の精神科病床は185万床ですが、そのうち日本の精神科病床は35万床を数えます。そこに約32万人の方々が入院しています。これは人口比で見ると世界平均の4倍の精神科ベッド数となります。
さらに先進諸国の精神科在院日数は20日前後ですが、日本では1年以上入院している人が20万人以上という驚くべき数字もあります。このように日本では、世界にも例をみない長期の隔離収容政策が行なわれてきました。
このため精神科病床を削減し、地域移行を進めることが日本の大きな課題として認識されるようになりま厚生労働省は、2004年に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を策定し、「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針を示しました。
入院治療は終わっているのに帰れる所がなくなっているなど、約7万人の社会的入院の解消を目標としてきましたが、遅々として進まず、その後も精神病床数、入院患者数が減ることもありませんでした。理由は、急性期を過ぎ安定期に入っても退院が許されず、長期入院しているうちに家族や地域社会と切り離され、地域生活の基盤そのものが失われていって、さらに退院が困難になるという悪循環に陥るからです。
こうした長期入院の大きな理由のひとつが、精神科病院に空きベッドがあれば、経営の維持のためにそれを埋める必要があったからと言われています。これが、病状が安定しても長期入院を強いられる「社会的入院」です。
しかも「精神科特例」として、少ない医療従事者の配置が認められ、おざなりの治療と劣悪な療養生活が続けられました。ちなみに医師の配置基準は、一般医療の3分の1です。
当事者不在の政策論議
ところが、「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」(厚生労働省)では、地域生活支援に力が注がれる代わりに、精神科病院の病棟をアパートなどに改修して入院患者を病院敷地内に押し止めようとする議論が主流となっています。
何故、日本だけが突出して病床が多いのか? 何故地域移行が進んでこなかったのか?という本質的問題が検証されないまま「病床転換型居住系施設」が検討されています。
こうした議論の流れになったおおきな原因は、一貫して当事者不在で審議が進められてきたことです。検討会の委員25人のうち、当事者はたった2人、家族代表も1人だけです。
障がい者権利条約と関連して馴染みになっている「 Nothing About Us Without Us (私たち抜きに私たちのことを決めないで)」の精神に背く委員構成で、「障がい者制度改革推進会議」(内閣府所管、2009年12月発足、オブザーバー2人を含む26人の構成員のうち14人が当事者)の審議方式ともかけ離れるものです。
大切なことは、精神障がい者と家族が必要としている社会的支援に謙虚に耳を傾け、病気や障がいがあっても人として安心して暮らせる具体的政策を検討することです。
当事者体験発表の資料では、退院しても支援者や理解者に囲まれていると、@差別や偏見を感じることがない、A孤独ではない、B私の生活が成り立っている、C趣味で生活が潤っている、D地域で暮らしている人との交流が増えていく、とまとめています。
退院前には不安でいっぱいだった方が、実際に退院して、このように報告されています。
「不安解消」のために必要な事
地域での暮らしを実現させる為に必要なのは、まず長期入院で地域生活から離れてしまった方々の不安の声に対応していく人員です。まだまだ足りない地域生活支援に必要な人員に必要な予算を配分し、地域移行・地域定着支援事業の人材を確保することです。
予算が不安定なために各地で不足している精神障がい者へのホームヘルパー、グループホーム等の「退院後を支える」サービスと、体験や境遇を共有するピアサポーターの関わりを継続して充実させていく施策が必要です。
長期の入院により退院や地域で暮らすことへの「自信がない」と言う患者さんが「自信を取り戻すための支援」こそ充実させていかなくてはなりません。それが地域社会の義務ではないでしょうか。
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