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特集:消防法改正スプリンクラー設置義務化で、存立危ぶまれるグループホーム 実現可能な防火安全策を探りたい
背景にグループホームへの無理解 「施設」認定を改めるべき

消防法改正で、来年4月から障がい支援区分4以上の障がい者が8割以上入居するグループホーム(以下「GH」)は、全てスプリンクラー設置(以下「SP」)が義務づけられようとしています。しかし、SP設置が可能なGHは非常に少なく、改正が強行されると、地域生活をめざしたGHの新規開設ができなくなるばかりか、既に生活を営んでいるGHでも改修できずに退去となるケースもたくさん出そうです。このため「GHの存立を脅かす重大問題」として、消防庁との話し合いを求めていますが、進展が見られません。

大阪でこの問題に取り組んでいる「障がい者の自立と完全参加を目指す大阪連絡会議(障大連)」議長・古田朋也さんに問題点と現状を聞きました。

根本的な問題は、消防庁の検討会議で、障がい者GHの「住まい」としての実態が全く理解されないまま、「施設」と位置づけられ議論が進められたことです。障がい者が「地域で暮らしたい」という願いから始まり、厚労省も推進している「施設から地域へ」という方針にも逆行する「GHSP設置義務」問題を特集します。(文責・編集部)

聞く耳持たぬ消防庁 編集部:なぜ消防法改正が必要とされたのですか?

古田:2006年、長崎県大村市にある認知症高齢者GHの火災で、7名の高齢者が死亡し、翌07年に消防法施行令が改定されたのが発端です。従来1000u以上の施設に義務づけられていたSP設置が、275u以上に改められました。

その後も08年6月、綾瀬市の障がい者GHで火災が起こり(死者3名)、13年2月には、長崎市にある認知症高齢者GH火災(5名死亡)が発生し、13年10月には福岡の有床診療所火災(10名死亡)などが続きました。

このため消防庁は、2013年度に、「高齢者GH等」「障がい者施設等」「有床診療所」の3つの火災対策検討部会を設置し、検討を行ってきました。火災事故は、10人以上の高齢者GHがほとんどだったのですが、検討結果として、小規模な障がい者GHも含め、寝泊りを伴うものは全てSP設置義務づけという流れになりました。

編: 検討会議の様子は?

古田: 検討会は、昨年3月に認知症高齢者GHについて検討が始まり、7月からは障がい者施設・GH、11月からは有床診療所・病院の検討と、3つに分けて始まりました。

4回にわたる障がい者施設・GHに関する検討会では、GHを運営する団体から「障がとの意見も度々出されましたが、消防庁は「聞く耳もたず」という姿勢で議論が進みましたい者GHは施設ではなく、住まい」「SP設置は小規模GHの実態に合っていない」。

結局、認知高齢者GHの結論に引きずられる形で、重度障がい者のGHも面積に関わらずSP設置が義務づけられる結論になりました。ただし有床診療所に関しては反発も強く、規制が緩められました。

検討会の議論は実態が踏まえられていない、「このまま改正案が施行されたらたいへんな事態になる」として、大阪からもGHの実態を訴え、消防庁との話し合いを続けました。検討会が終わる頃になって消防庁は、ようやく普通の一軒家や共同住宅をそのまま利用しているGHがほとんどであることを認識し始めました。そして、このままではまずいと思ったのか、3月に交付された省令では急に、共同住宅利用のGHについては一部、SP設置を免除する項目が盛り込まれました。

また、3月の最終報告書の段階でようやく、「障がい者GHは4〜6名の非常に小規模なものが多くあり、『住まい』としての側面にも十分配慮した検討が必要」、「今後とも、障がい者施設等の状況について関係機関が情報を共有し、障がい者等を取り巻く環境の変化に応じた対応が求められる」との文言で議論を継続する方向性を確認したものの、その後の話し合いは進んでいないのが現状です。

実態とかけ離れた改正

編: 問題点は?

古田:どのGHでも安全対策を重視していますが、障がい者GHにSP設置が義務づけられた場合、大規模改修工事が必要で、設置できない物件が多く、また借家の場合、貸主の理解を得ることが非常に難しいのが実情です。

2007年の改定の時にも、重度障がい者のGHに自動火災報知設備が義務づけられたのですが、マンションの1室を借りていたとしても、建物全体への設置が義務づけられました。それはたいへんな工事となりますし、補助は出るのですがGHの部分のみだったので、貸主の負担も大きく、退去を求められる事態も予想されました。その時も問題を訴え、検討会が再開されて、2010年に設備設置は、「当該GHのみ」とする緩和措置が決められました。

今回(2013年)の改定では、さらに大がかりなSPが義務づけられます。SPは、地下の水道管から建物の構造体や壁を通して各部屋の噴出口までの水道工事が必要です。数百万円規模の工事となりますし、水圧が低い場合は、加圧ポンプなどが必要となります。建築関係者からは、「SPは、新築時にする工事であって、改修工事で簡単に後付けできる工事ではない」と聞いています。

大阪は、全国的に見ても重度障がい者のGHが多く、公営住宅を利用したGHも全国で1番多く、約500軒あります。府営住宅の担当課に相談したところ、「(SP設置は)限りなく不可能に近い」と言われました。府・市の障害福祉担当課もこの影響を強く懸念しており、府下のGHの実態を調査中です。

このようにSPの設置が強行されれば、設置できないGHが退居を求められたり、新規の開設ができなくなることは明らかです。こうした事態は、絶対に避けなければなりません。

編:どうしてそんな実態と合わない改正案になったのですか?

古田: 消防庁が障がい者GHの実態を全く理解していないことに、根本的な問題があります。障がい福祉の法律ではGHは「住まい」と位置づけられていますが、消防法では、障がい者GHは「施設」と位置づけられており、重度障がい者のGHは、大きな障がい者施設や高齢者施設と全く同じ扱いとされています。また、重度障がい者のGHが1軒でも入ったマンションは、建物全体が「雑居ビル」と同じ「人命リスクが高い建物」に分類されてしまい、格段に厳しい防火規制の対象とされています。

大規模な入所施設を想定したSPをふつうの住まいに義務づけること自身、無理があり、そのまま強行されれば、ほとんどのGHが対応できず、現在重度障がい者が暮らしているGHは退去を余儀なくされたり、来年4月以降の新設は極めて難しくなってしまいます。

障がい者GHは「施設ではなく住まいとしてのふつうの暮らし」との理念を大事にしてきましたので、入所施設とちがって2〜6名の非常に小規模な住戸がほとんどであり、ふつうの家を利用しているケースが大半です。また、最近では建築基準法でも障がい者GHは住まいではなく「寄宿舎」と位置づけられ始め、建物の基準が大きく変わるため開設できなくなる事態が各地で発生しています。

GHは「施設」ではない

消防庁は、GHの規模や支援体制は全く考慮せず、施設設備面しか判断しないことも問題です。小規模な障がい者GHの場合、夜間でも入居者3〜4人に対し1人の支援者が常駐していたりします。高齢者GHのように10人に1人という体制と違い、非常時の安全はより確保しやすいと言えます。ところが消防庁はこうした人的要素を全く考慮せず、SP設置を義務づけようとしています。

簡易なしくみの水道連結型SPだけでは消火できません。今回の義務化は、逃げるための時間稼ぎが本来の目的とされています。現在、家庭用の消火器サイズの自動消火設備も開発中で、近々製品化される予定であるなど、安全を確保する現実的な代替案は他にもあるのです。

また、SP設置義務化は、GHのあり方を施設型に変えてしまうことにもなりかねません。GHは、普通の住居で暮らすことで地域の一員として生活することをめざした運動です。SPが義務づけられると、賃貸物件でなく「施設的な大きなGH」しか開設できなくなります。

安全確保は当然大事です。しかし、それゆえに生活の場が奪われてしまうことになれば、本末転倒ではないでしょうか?

編: 今後の取り組みは?

古田:まず、障がい者GHは「施設」ではなく、普通の住宅を借りて小規模で運営しているものがほとんどであるという現実から再検討すべきです。大規模高齢者施設とは違い、マンションや公営住宅の1〜2住戸を借りて「数人で地域生活をする場」としての防火安全策を検討することが重要です。

今は、高齢化社会が進むなか、高齢者夫婦だけの世帯や高齢の親と障がい者の世帯も増えており、老老介護や孤立死の問題などが社会問題となっています。こうした世帯で火災が起こり、逃げ遅れて犠牲者がでるということも十分ありえます。どんな家庭でも実現可能な防火安全対策を考えるべきであり、新設時から全ての住宅にSP設置が進められていれば、このような問題も起こりません。

例えば、今回の改正案で、重度障がい者のGHに設置されている自動火災報知器と火災通報装置が連動するように義務化されました。火災が起これば警報機が鳴り、同時に消防署に自動的に連絡が入るという仕組みです。これなどは実現可能で有効な歓迎すべき改正です。

来年4月から改正令は施行されます。改正内容は以上のような問題がありますが、当面の対策としては、入居者が少人数で夜間支援があるGHについては例外とする。あるいは、簡易の自動消火設備での代替を認めることです。

法令施行後は、来年4月から新設の重度障がい者のGHにはSP設置が求められ、既存のGHも3年間の猶予期間(きかん)がありますが、順次設置が求められていきます。実際の指導権限は地元の消防署にあり、消防署が現地の建物を見て、必要な防火設備の内容を決定することになります。そうなると、あちらこちらで「つけろ、つけられない」といった問題が発生してしまうことになり、そうした事態を避けなければなりません。そのためにも、早急に改正案について再検討の場をもつことが求められています。その際、重要な出発点は、GHが住居であり、施設ではないという現実です。

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