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特集:障害者権利条約批准 問われる吹田市教委の「合理的配慮」
介護や医療ケアの必要な子どももあたりまえに修学旅行に参加できる配慮を!

吹田市の中学校で、障がいのある生徒の修学旅行に親の同行が求められ、追加費用として20万円余も請求されるという困った事態が起きています。今回、問題提起をしたのは長瀬真理さん(仮名)。5年前に長男・進君の修学旅行でも同行を求められて、自費で同行されました。今年、次男・貴君(14才)の沖縄修学旅行は親付きではなく子ども同士で過ごせるよう対応してもらいたかったのですが、付添い予定の看護師がキャンセルとなり、結局母親が付添うことになりました。さらに飛行機座席の確認も不十分だったため非常に高額な自己負担を請求されています。

これでは、親が付添いできなかったり余分にかかる費用が出せなかったりすると、障がいのある生徒は修学旅行に行けません。日本は、1月に国連障害者権利条約に批准したばかりです。「障がいに基づくあらゆる差別」を禁止し、人としての権利・尊厳を守り、「合理的配慮」をすすめるべきこの時代にあっても、障がいを理由に異なる取り扱いをすることが公教育の現場でまかり通っています。今号では、「合理的配慮」を身の回りでどのように実現(じつげん)させていくか?を考えます(編集部)

高額なストレッチャー航空運賃

この学校では兄・進君との経験を活かし、貴君への対応も「ともに学び育つ教育」をしっかり実践しようと先生方がとりくまれています。沖縄での民泊(ホームステイ)やグループ行動など参加体制を保護者とも相談しながら準備され、楽しく修学旅行を終えることができました。しかし直前に座席変更を迫られたり、看護師を確保できなかったのは、学校や市教委の責任ではないでしょうか。

5月中旬の修学旅行について打ち合わせが始まったのは1月でした。担当教師が沖縄での下見を終え、現地行動や移動方法について話し合われました。この時点では、校長提案で、医療行為となる食事介助などをする看護師を配置し学校として宿泊体制をとる方向でしたが、3月半ばになって看護師が辞退され、他にあたってみても看護師を確保できず、保護者同伴となりました。

4月30日になって飛行機の座席の問題が出てきました。離発着時などはリクライニングできないので直角に座っていられるかと、聞かれたのです。貴君は、以前から45度以上の傾斜をつけた車いすで生活・移動しています。旅行を2週間前に控えた5月1日、別便別料金のストレッチャー席の選択肢が旅行会社から示され、「翌2日の午後5時までに決定しないとキャンセル料が発生する」と告げられた長瀬さんは、急いで市教委に走り、経過を説明して費用負担について交渉しました。学校長も市教委に同様の要請をしていたのですが、市教委の回答は「就学援助制度で決まっている2万数千円だけ」の1点ばりでした。

普通座席では無理な姿勢を続けることになるとの説明は事前に聞かされていず、突然の判断を個人的に求められたわけです。「体に負担がかかると沖縄に到着しても体調不良で、修学旅行を楽しめないかもしれないとの心配があった」(長瀬さん)ので、ストレッチャー席を選択しましたが、他の生徒たちとは別便となり、5月15日、貴君は母親と支援担当の先生と3人で1足遅れて沖縄に飛び立つことになりました。

10月上旬、約20万円の請求書を受け取った長瀬さんは、「障害者の権利保障をすすめる会」で経過を相談したところ、「それは合理的配慮を欠いた差別にあたる」との意見が続出。会のメンバーと共に対市教委交渉に臨むこととなりました。

問題にしたいこと

1つは、学校側の責任です。貴君の病気や障がいについては入学時から学校に伝えており、それに配慮した修学旅行計画が立てられるべきです。とりわけ飛行機の手配は、学校側から旅行会社に伝え、どういう形で搭乗するのが適当か調整確認できたはずです。ストレッチャー料金は一般の3〜5倍と高額ですが、早い段階でわかっていればプレミアムシートの選択肢も考えられ、費用を抑えられたかもしれません。学校の確認不足で直前追加になった費用を、障がい生徒個人にすべて求めるのは不当だと思います。

2つめは市教委の責任です。枚方市や茨木市では、医療的ケアを要する生徒が、宿泊を伴う行事や校外学習などに参加する場合、看護師を配置して学校として体制を整えています。また費用負担の軽減措置をされている自治体もあります。5年前の兄・進君の時も、前例がないという理由で、母親が同伴せざるをえず費用も自己負担しましたが、要望を聞いてからも前向きな検討もされず放置してきた教育委員会の姿勢は、無責任といわざるを得ません。

障がいゆえにこうむる不利益は「差別」と考えるという障害者権利条約の理念に、行政としてどう向き合っていくのかが問われています。

他市町村の場合

豊中市では、気管切開で医療的ケアが必要な小学5年生の児童に対し、林間学校で保護者の付き添いが求められ、母親が付き添いました。しかし、本人が「親には付き添って欲しくない」と意思表示をしたこともあり、市教委と学校側が改善をめざして環境を整え、6年生の修学旅行では、看護師が付き添い保護者なしで終了できました。

修学旅行を終えた児童は、親なしで旅行ができたことで自信ができ、笑顔で帰宅したそうです。親が同行しなくても、地域の人たちと生きていけるという実感を持てたことはとても重要です。

長瀬さんは、現在の心境を次のように語っています。

医療的ケアが必要な子どもを普通校に通わせることに迷いはありました。兄の進の場合、小学校から進学先は支援学校しかないように言(い)われましたし、実際、重度の障がい児を受け入れたことのない地域の学校が対応や環境を整えられるのかも心配だったからです。しかし息子の友だちたちが進を支え、友達として付き合っている姿を見て、「これで良かったんだ」と勇気づけられました。

弟の貴も地元の友達と共に育ち修学旅行を迎えられたことは、本当に喜んでいます。だからこそ、親抜きで友達と一緒の時間を過ごさせてやりたかった。私は貴の体調が急変した時のために沖縄には行くつもりでした。しかし、それは見守りのためであり、「当たり前」とするのは違うと思います。修学旅行は学校教育の一環なのですから、看護師の付添いが第一前提なのではないでしょうか。

医療的ケアが必要な生徒は、他の中学にもいます。1年後にも同じ問題が起こります。その子や保護者が安心して修学旅行を笑顔で終えるためにも、「合理的配慮」の原則を確認して欲しいと思います。そのためにも、貴のケースは曖昧にしたくありません。

☆貴君は、ムコ多糖症という代謝異常を起こす難病(食べ物などを取り入れて体を作る仕組みの一部がうまくいかず、徐々に身体・知的機能に様々な障がいを引き起こす進行性の病気)です。兄の進君も同じ難病で、同じ地元中学に通っていましたが、残念ながら4年前に亡くなられました。

「子どもの権利条約」からの視点 「障害」のある子供の教育を考える北摂連絡会 代表 鈴木留美子

子どもの権利条約には、@生きる権利、A育つ権利、B暴力から守られる権利に加えて、C参加する権利が謳われています。そして同権利条約が対象とする「子ども」とは、当然、障がいのあるなしにかかわらず全ての子どもが対象であるはずで、障がいがあるからといって除外されてはなりません。

したがって障がいのある生徒に対してだけ修学旅行への保護者の付き添いが求められ、費用請求までなされたことは、C参加する権利や、A育つ権利が侵害されたのだと思います。吹田市教委は、今回の措置が子どもの権利条約から見て正当なものかどうか?しっかり考え直すべきです。

さらに言えば、障害者権利条約の批准に向け、「国及び地方公共団体は、…障害者である児童・生徒が障害者でない児童・生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、…必要な施策を講じなければならない」と明示されている障害者基本法が成立したのですから、なおさらです。

長瀬さんの場合、5年前のお兄ちゃんの修学旅行では、「前例がない」として、保護者の側が譲歩して付き添っているのですが、本来ならこの時点で教育委員会は何らかの対処を考え、解決方法を模索すべきでした。ところが5年後も同じ対応をしたということは、保護者の付き添いを当然視していたということです。障がいゆえに被る不利益は「差別」です。市教委は、当たり前のように保護者の付き添いを求めることが障がい者差別だということに気づいていないのでしょう。吹田市教委は、子どもの権利条約や障害者権利条約をもう一度読み、勉強し直して欲しいと思います。

障がいのある児童・生徒も「子ども」に含まれるのならその子らが普通に育っていくために必要な環境を整備し、措置を講じるのが市教委の役割であり、そうした「合理的配慮」を怠るのなら、教育行政が差別する側に立っていることになると思います。

障がいのある子は特別な子だから、他の子どもと違う教育内容になってもしょうがないという考えは、子どもの権利条約の精神に反していますし、悲しいことです。

10月14日に市教委と話し合いを行い、私たちの考え方とその根拠を伝えたのですが、11月18日の交渉においては、「他の部局とも相談したが術がなく、教育委員会としてはどうすることもできない」との回答が表明されました。市教委は、「障がいゆえに不利益を被らせている」という認識が全くないようです。「これは差別である」という認識に立って、主体的に解決法を探るという姿勢に転換しない限り、解決策は見つからないと思います。予算の問題は、次の問題なのです。

府立池田北高校の折田涼さんの場合では、涼さんが人工呼吸器をつけた生徒であったために、入学当初から保護者の負担を軽減するために学校側が準備を重ね、修学旅行も保護者の付き添いなし、ストレッチャー席の保護者負担なしで終えることができました。やろうと思えばできるのです。吹田市教委には、「合理的配慮とは何か? 何が差別なのか?」という基本認識が問われています。

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