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特集:包括的な大阪府障がい者差別解消条例を!
「共に生きる社会」に向け、合理的配慮義務を インタビュー 大阪府差別解消部会・弁護士 辻川圭乃さん

今春の大阪府差別解消条例制定に向けて、急ピッチで準備が進んでいます。同条例は、差別解消法(2015年成立・16年4月施行)に基づき、差別の定義や合理的配慮の内容を示し、差別が起きた時の相談・解決体制などを定めることによって、「共に生きる社会」を広げ根付かせる重要な意義があります。同条例の検討委員として深く議論に関わった辻川圭乃弁護士に、議論の経過や問題点について聞きました。(文責・編集部)

条例制定の意義

辻川:差別解消法は、障がいのある人が差別を受けていると感じている現状を変えるために制定されました。しかし、@どういうことが差別になるのか?という定義や「合理的配慮」とは何か?という基本的なことについては定められていません。さらに、A事業者に対して合理的配慮は、努力義務に留まっており、B差別が起きた時に、相談を受け付け、紛争を解決するための体制について具体的な定めがない、などの課題があり、C解決策に実効性をもたせる措置としては主務大臣の勧告が定められているだけ、D地域協議会の設置についても、全面的に市町村にゆだねられている、などの問題点があります。

こうした点から、差別解消法は、障がいのある人が地域で暮らしていくことを保障する法律としては、かなり不十分です。

大阪府は条例案作成にあたって、障がい者差別解消ガイドラインによる啓発活動と、条例による相談、紛争の防止・解決の体制を二本の柱として、差別解消に取り組むとの方針を打ち出していますが、これらに限定することなく、条例の目的として「全ての府民が障がいの有無によって分け隔てられることなく、共に生きる大阪の社会の実現」を掲げ、包括的な条例案にすべきです。

特に「合理的配慮」は解消法の大きな柱のひとつですから、民間事業者に対しても義務化が必要です。民間事業者は、「義務化」によって裁判で訴えられたりすることを恐れているようですが、罰則規定がないので、そんなことはありません。義務化とは、「話し合いの場に出席する義務」と考えて欲しいと思います。

紛争解決に限定した部分的条例

編集部:条例検討の流れは、どうでしたか?

辻川: 大阪府は、この目的に沿って既に広く府民から事例を収集し、実態を知るためにアンケート調査を行い、「ガイドライン」を作りました(2015年3月)。

ところが当初大阪府は、充実したガイドラインができたと自負していたこともあり、条例については、法が施行された後の様子を見てから、というような消極的態度でした。

しかし、8月頃になって、法が「相談や紛争解決のための体制」を定めていないために、法施行(今年4月)後、差別事例に対処できないことに気がついて、一気に条例化の流れとなりました。こうした経緯から今回の大阪府条例案は、相談・紛争解決のための体制整備に限定した内容となっています。

差別に関する相談は、まず各市町村が受け付けますが、解決できない場合に備えて、府に広域支援相談員を配置します。相談員が実情調査を行い、調査結果に基づいて「合議体」が斡旋案を示すことになります。もし、斡旋案を受け入れず実行しない場合などは、知事が勧告や公表を行うという形で実効性を持たせようとしています。

この「合議体」は「障がい者差別解消支援地域協議会」と名付けられ、差別事例毎に協議を行い、斡旋案を提示することになります。同協議会は、「差別解消部会」と同じで、当事者代表・学識経験者・事業者代表で構成されるようです。

*斡旋=両者の間に入ってうまくいくよう取りはからうこと

編: 条例の問題点とは?

辻川:そもそも協議会が扱う事例が「不当な差別的取り扱い」に限定されており、「合理的配慮の不提供」が除外されていることは問題です。

たとえば、車いすを使用する障がい者が入店を拒否されたという事案が調査・斡旋にかけられたとします。その場合、単に「入店させなさい」という斡旋案では意味がありません。どんな合理的配慮を提供してよいかわからないために入店を拒否することもあるからです。

また、段差にスロープを付けることやみんなで車いすを抱えあげるなど、ちょっとした合理的配慮の提供で、入店が可能になる場合も少なくありません。逆に、何の合理的配慮も提供せずに、単に形式的に入店を認めただけでは初期の目的が達成されるとはいえません。

本当に障がいのある人の困りごとを解決するためには、どのような合理的配慮があれば入店が可能かまでをあっせん案で示す必要があります。

そもそも実際の事例において障がいのある人が困っている原因が、「不当な差別的取扱い」なのか、「合理的配慮の不提供」なのかを明確に分けることは困難です。不当な差別的取扱いの是正と合理的配慮の提供は表裏一体なのです。調査・あっせんを「不当な差別的取扱い」に限定すべきではなく、「合理的配慮の不提供事案」も含めて、建設的な対話によって実現されることが望まれます。

早期の見直しで包括的条例を

次に、検討・見直しの時期を国の法施行後3年としていることも問題です。現行の内容のまま条例が制定されると、これまで指摘した課題が解決されないまま条例が施行されることになります。

これまでの例として、法施行3年後に必ず速やかに検討がされるとは限らず、検討が開始されても見直しの法改正がなされるまで相当の時間かかっています。高齢者虐待防止法の場合は、改正まで10年もかかりました。

今回の条例案を「相談紛争解決の体制作り」に限定するのであれば、法施行後の状況等に関わらず法・条例施行後1年後に見直すことが必要です。

そもそも条例案の根本的な問題として、民間事業者の合理的配慮が努力義務に留まっているという点があります。

たとえば補助犬条例は、同じく努力義務ですが、問題解決が困難な事例がたくさん生じています。あるスーパーマーケットでは、補助犬の入店を拒んでいます。本人の代わりに店員が必要なものを揃えるという代替措置は講じていますが、盲導犬入店については、「努力義務」でしかないことを盾に頑として入店を拒み続けています。

府ガイドラインは、何が差別に当たるかについて、府民共通の物差しとなるよう、不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供について具体的に記されています。府ガイドラインを活用するためには、合理的配慮について条例で法的義務と定めるべきです。

編:そのために、どのような行動が必要ですか?

辻川:今回の府条例は、部分的な条例なので、まず包括的な条例を早期に作成すべきであることを訴える必要があります。

韓国の障がい者団体は、障がい者差別禁止法施行後、政府の人権委員会に積極的に申し立てを行い実績を積み上げました。

大阪でも差別事例をどんどんあげていき、不当な差別的取り扱いだけでは条例が機能しない、あるいは、総合的な条例が必要だということになれば、条例改正の流れも生まれるでしょう。

差別解消法と条例をいかすため建設的な対話の実現を!
障大連(障害者の自立と完全参加をめざす大阪連絡会議) 西尾 元秀

2015年6月〜8月にかけ、大阪府の障がい者施策推進協議会の下におかれた「差別解消部会」で5回に渡り、(1)相談、紛争の防止・解決の体制整備の具体的方策、(2)実効性の確保のための措置(勧告、公表、罰則)の必要性、(3)((1)・(2)の議論を通じて)条例の必要性、が議論されました。

結果、条例をつくるべきという結論に至りましたが、「いつまでに作るのか?」ということについては、意見が分かれました。

今年4月、法施行と同時につくる理由の主なものとしては「法施行と同時に条例を策定する方が、タイミングとして作りやすい」「既に大阪府の仕組みとしてやることが決まっていた広域相談員等を、条例によって強い位置づけにする必要がある」というもの。

法施行と同時でなくてもよい理由として主なものは「少し遅れても、他府県条例と同じように、様々な規定を盛り込むべき」「作成のプロセスにおいて、障がい者団体等とも意見交換を行いながら行うべき」というものでした(私たちはこちらの意見に賛成でした)。

結果的には、行政が「法施行と同時につくる」決断をくだし、その作業を進めることとなりましたが、2月議会に合わせるよう作成するには、あまりにも残された時間は少なかったのが現実です。

条例について議論した差別解消部会は、11月・12月の2回にとどまり、また12月の会議で骨子案が出されましたが、条例の文案などは示されませんでした。

権利条約の制定、日本での批准に向け「私たち抜きに私たちのことを決めるな」という言葉・スローガンがあります。今回の条例内容の決め方は、当事者が全く不在というわけではなかったですが、しかし参加と言えるレベルでもありませんでした。たとえスケジュール的な縛りがあるとしても、「法制との調整があるので明かせない」ではなく、もう少し検討している条文案を出し、感想に留まる可能性はあっても各団体から意見を聞く場を設ける等の姿勢が、行政に全く見られないのは大きな問題です。

今回の差別解消法、そして条例においては、何らかの差別事案が発生した時の解決策として双方の「建設的対話が必要」とされています。

今年4月の法施行以降、ともに生きる社会を作っていくために、どのように差別解消法(条例を含めて)を動かしていくのか。それこそが大切なことですが、そのためにも「行政と様々な障がい者団体との建設的対話」の再構築が、が今まさに大きな課題として残されています。

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