4ひきめ(2002年8月)
特集・がんばらない生き方


インタビュー
    がんばらないということ
宇宙塵(うちゅうじん)
                                                 

 「がんばる」「がんばれ」「がんばろう」…この言葉(ことば)、日々使(つか)っていませんか? 

でも、「がんばる」って、どうして?なんのため? 案外(あんがい)よくわかっていないのかもしれません。

「がんばらない」()(かた)実践(じっせん)する脳性(のうせい)マヒ障がい者(しょうがいしゃ)  宇宙塵(うちゅうじん) さんにお(はなし)をうかがいました。((ぶんせき):編集部(へんしゅうぶ)
 

(へんしゅうぶちゅう)宇宙塵(うちゅうじん)さんの発言部分(はつげんぶぶん)では、本人(ほんにん)意向(いこう)により(しょう)がい(しゃ)」という表現(ひょうげん)使(つか)っています。


 障がい者(しょうがいしゃ)だから、がんばれ?  

 宇宙塵(うちゅうじん)さんはずっと、「障がい者(しょうがいしゃ)だからがんばらなくてはいけない」と()われてきたそうですが。

 ぼくの経験(けいけん)でいうと、()どもの(ころ)からずっと、()われてきた。

極端(きょくたん)()(かた)をすると、時々(ときどき)、バカにされてるんじゃないかと(おも)うよ。ぼくがゴミを()しに()くと、「がんばってるね」と()われる。なんで(しょう)がい(しゃ)がゴミを()すときに「がんばれ」という言葉(ことば)()てくるんだろうって(おも)う。()たり(まえ)のことなのに。

(まえ)までは(おこ)ったの。そういうことを()われるとね。この(ごろ)、「がんばれ」と()われると、「ありがとうございます」って()うようになった。いちいち(つか)れるから。

 ぼくを()て「がんばれ」と()うのは、一生懸命(いっしょうけんめい)がんばってる自分(じぶん)自身(じしん)への(なぐさ)めだと(おも)う。自分(じぶん)たちががんばってるんだから(しょう)がい(しゃ)もがんばらないといけないという。本当(ほんとう)にいい迷惑(めいわく)だよ。

 ―(いま)社会(しゃかい)では、生産性(せいさんせい)のある仕事(しごと)とか(やく)()つことをしなければいけないという(かんが)えがあると(おも)うんです。障がい者(しょうがいしゃ)がそういう意味(いみ)(なに)もできないと(おも)(ひと)は、迷惑(めいわく)かけないようにがんばれと「(はげ)ます」んじゃないですか?

 あるある。でも迷惑(めいわく)かけない(ひと)なんて、この()にいないじゃん。迷惑(めいわく)かけないで()きてる人間(にんげん)なんていないんだ。なんで「(しょう)がい(しゃ)だから」ということが、(あたま)につくわけ?

 ―障がい者(しょうがいしゃ)じゃない(ひと)は、自分(じぶん)のことは自分(じぶん)でできるという(おも)()みがあるのでしょうか。

 (おも)()みがあるね。

 ―それに(たい)して、障がい者(しょうがいしゃ)自立(じりつ)生活(せいかつ)介護(かいご)介助(かいじょ)がなければ()()たないじゃないか、というような。

 ぼくは自立(じりつ)生活(せいかつ)なんてしてないよ、はっきり()って。「他立(たりつ)生活(せいかつ)」だよ。

 なんて()うかなぁ。(しょう)がい(しゃ)はなんでも1人(ひとり)でやらないといけないと(おし)えてこられたわけ。(おや)からも、養護(ようご)学校(がっこう)からも。インプットされてきたわけよ、(ちい)さい(ころ)から。(ひと)迷惑(めいわく)かけないように()きなさい、(しょく)()って、と。ぼくもだから印刷(いんさつ)をやったんだよ。職業(しょくぎょう)訓練校(くんれんこう)()ったんだ。がんばって、がんばって・・・。でも、社会(しゃかい)()たとき、それが(やく)()たないっていうことを()ったわけ。養護(ようご)学校(がっこう)勉強(べんきょう)(やく)()たない。迷惑(めいわく)かけないで()きようというのが間違(まちが)いだった。それからだね、ぼくの疑問(ぎもん)(はじ)まったのは。(いま)まで(おし)えられてきたのは(なん)なんだ?という(なや)み。

 ―それは、健常者(けんじょうしゃ)により(ちか)く、と(おし)えられてきたということですか?

 健全者(けんぜんしゃ)に「より」じゃなくて、「(かぎ)りなく」(ちか)づくようにと(おし)えてこられたわけ。(かぎ)りなく(ちか)づくように、迷惑(めいわく)なんかかけないように。

 ―それがよい障がい者(しょうがいしゃ)だということですか。

 うん。そういう(かんが)えはね、健全者(けんぜんしゃ)(かんが)えなわけよ。ぼくらの(かんが)えじゃない。

 ―社会(しゃかい)()て、(ちが)うと()かってから(かんが)(かた)()えたんですか?

 だけど、なかなか()わらなかったけどね。十何年(じゅうなんねん)もインプットされてきたから。そう簡単(かんたん)には()わらないよ。

 ―それはわかる()がします。自分(じぶん)のなかにも「がんばらなあかん」というのはしみついてる。

 あるある。日本(にほん)社会(しゃかい)というのは全然(ぜんぜん)日本(にほん)だけじゃなくて、韓国(かんこく)なんかすごいよ(いま)(わらい))。がんばれがんばれ、日本(にほん)()けるな、って。

 社会(しゃかい)(たい)して、がんばらない 

 ―宇宙塵(うちゅうじん)さんの「がんばらない」とはどういうものですか?

 (いま)社会(しゃかい)(たい)してがんばらない。社会(しゃかい)(なが)れ、(はや)さに(たい)して、がんばらない。がんばりたくない。

 ―社会(しゃかい)(なが)れ、(はや)さというと?

 競争(きょうそう)社会(しゃかい)。だって、競争(きょうそう)社会(しゃかい)がぼくたち(しょう)がい(しゃ)をはじいてきたわけ。ぼくたち(しょう)がい(しゃ)(ふく)めていれば、(いま)競争(きょうそう)社会(しゃかい)はもっとゆっくりになってたかもしれない。(いま)がこうなってるのは、ぼくらをはじいてきたからだよ。

 ―(いま)はできる(ひと)(はや)(ひと)目指(めざ)すべき基準(きじゅん)になってますね。

 そう。できる(しょう)がい(しゃ)健全者(けんぜんしゃ)(ちか)(しょう)がい(しゃ)()けいれられるわけ。

 ―乙武(おとたけ)洋匡(ひろただ)さん(『五体(ごたい)不満足(ふまんぞく)』の著者(ちょしゃ))みたいに「がんばる障がい者(しょうがいしゃ)」を()ると、とても(よろこ)ぶというか安心(あんしん)する(ひと)がいますけど。

 そう、安心(あんしん)するわけ。それがいちばんのネックだと(おも)うよ。ぼくみたいに「がんばらない」って()ったら、(こわ)いもん。(こわ)いというか不安(ふあん)になる。

 ―その不安(ふあん)って、どこから()るんでしょう?

 (しょう)がい(しゃ)イコールがんばるという図式(ずしき)があって、それが(くず)されるし、同時(どうじ)自分(じぶん)(いま)がんばっているのも(くず)させられるから。

 ―「がんばらない」と()うと、不安(ふあん)になってるような反応(はんのう)がありますか?

 あるある。「理屈(りくつ)っぽい」とか「生意気(なまいき)だ」とか、「なまけてる」。「やればできる」とかね((わらい))。「やればできる」というのがいちばん(おお)いね。

 ―「あきらめるなよ」みたいな(かん)じですかね。自分(じぶん)自身(じしん)にも()えずそう()()かせてるんじゃないでしょうか。

 かわいそうに((わらい))。「やればできる」って言葉(ことば)がぼくはむかつくわけ。(ちい)さい(ころ)から()われてきたから。やってもできないものはあるんだよ。

 ―自分(じぶん)努力(どりょく)してできる(ひと)ほど、できない(ひと)気持(きも)ちがわからないことってありますね。努力(どりょく)()りないんだ、とか。

 そんなやつらと()()いたくないんだよね((わらい))。(つか)れるんだ。

 がんばらないニッポン! 

 ―「がんばらなくてはいけない」と()うのは、なにか(つね)にみんなで目指(めざ)すものが必要(ひつよう)なんですかね?

 (とく)日本(にほん)はね。ワールドカップでも、あの一体感(いったいかん)(こわ)いよね。「がんばれニッポン」とかね。「がんばらないニッポン」でもいいと(おも)うんだけどね((わらい))。

 ―「がんばらないニッポン」、いいですね((わらい))。ワールドカップのときは、日本(にほん)応援(おうえん)しないと()ったら(ふくろ)だたきにあうんちゃうか、みたいな()()がりでしたもんね。

 「非国民(ひこくみん)」みたいなね((わらい))。

 ―日本(にほん)応援(おうえん)しない(ひと)もいたと(おも)うんだけど、なかなか()いにくい。

 だから(こわ)いんだよ。少数(しょうすう)反対(はんたい)意見(いけん)()えない、()えなくされる。「がんばれニッポン」でもいいよ。「がんばらないニッポン」も()えないといけない。

 がんばる(しょう)がい(しゃ)もいてもいいよ。がんばらない(しょう)がい(しゃ)もいてもいいの。なんでがんばる(しょう)がい(しゃ)だけがよくて、がんばらない(しょう)がい(しゃ)はダメなの? がんばれない(しょう)がい(しゃ)もいるわけ。なんで(しょう)がい(しゃ)はがんばらないといけないの? 乙武(おとたけ)さんにしても、(かれ)(わる)いんじゃないの。(つく)()げてる(まわ)りが(わる)いの。それが、またどんどん「がんばる」というのにつながるんだよ。そうなると、()きにくくなると(おも)うよ、ぼくみたいな(しょう)がい(しゃ)は。(しょう)がい(しゃ)じゃなくても()きにくくなるかもわかんない。

 ―実際(じっさい)これだけ「(いや)し」が流行(はや)ってるのは、みんな(つか)れてるんだろうと(おも)うんですけどね。

 がんばったから(いや)そうとかね。なんでそこまでがんばらないといけないの。(いや)されなくていいじゃん。

 ―(いや)しを(もと)める(まえ)にまずこの(つか)れる社会(しゃかい)をなんとかしろ、と。

 そうそう。

 ―マスコミが「スロー」を()()げたりしても、表面的(ひょうめんてき)でうそくさいですよね。

 「がんばって(やす)みましょう」とかね((わらい))。

 ―そういうのじゃなく、根本的(こんぽんてき)競争(きょうそう)社会(しゃかい)見直(みなお)していくにはどうしたらいいと(おも)いますか?

 ぼくみたいじゃないといけないと(おも)うよ。「がんばらない」と()っていかないと、(おも)いきり。(おな)(おも)いをもってる(ひと)はいるからね。

 ―がんばらないことと、社会(しゃかい)(たい)して(たたか)うこと。一見(いっけん)相反(あいはん)するようでいて、(じつ)()(はな)せないようにも(おも)いますが、そのあたりについては?

 (たたか)うにしても、(かた)(ちから)()かないとね。がんばってると、もろいよ。もっとしなやかにやんないと、自分(じぶん)(つか)れると(おも)うよ。ぼくも(むかし)はがんばって(たたか)ったけど、(つか)れてね。病気(びょうき)になったもん。それから本当(ほんとう)に、(かた)(ちから)()けた。でも、やるときはやるというね。いつもがんばるのは(つか)れるもん。だから、「がんばらない」と()うの。

 (あお)(しば)」の衝撃(しょうげき) 

 ―宇宙塵(うちゅうじん)さんの「がんばらない」は「(あお)(しば)(かい)」(※)の影響(えいきょう)ってあるんですか?

 活動(かつどう)をしてたよ。二十歳(はたち)(まえ)かな。その影響(えいきょう)は、あるよね。絶対(ぜったい)にある。

 ―(あお)(しば)からどんな影響(えいきょう)を?

 衝撃(しょうげき)だったねえ、あれは。こういう(しょう)がい(しゃ)もいるんだって(おも)ったね。まったく(ちが)世界(せかい)。わがままに()きたりとかね、欲望(よくぼう)のままに()きるとか。自分(じぶん)のままでいいんだと(おも)った。ぼくなんか自分(じぶん)否定(ひてい)してたもん、養護(ようご)学校(がっこう)()ってた(ころ)。がんばってがんばってやってたから。

 ―それまではそういう(かんが)(かた)はありえない?

 ありえなかったね、ぼくのなかでは。でも、ぼくの養護(ようご)学校(がっこう)教員(きょういん)たちは(あお)(しば)影響(えいきょう)()けてきたから、それなりには(はい)ってきてたけど、実際(じっさい)()ったときはショックだったね。(いま)までの自分(じぶん)(かんが)えをがらっと()えるものを(かれ)らは()っていた。

 ―(あお)(しば)思想(しそう)はその()障がい者(しょうがいしゃ)運動(うんどう)などにどのように(つづ)いていったんですか?

 ()くも(わる)くも、(いま)(つづ)いていない。(いま)(わか)(しょう)がい(しゃ)なんか、()たり(まえ)だと(おも)ってるわけ。電車(でんしゃ)()れるのも()たり(まえ)。かえって不幸(ふこう)だと(おも)うよ。ぼくらが(わか)(ころ)は、()べるところに()ってもお(ことわ)り。(いま)なら(ことわ)るところなんかないからね。

 ―かえって不幸(ふこう)というのは、健常者(けんじょうしゃ)障がい者(しょうがいしゃ)(たい)する(かんが)(かた)()わってないからですか?

 (おな)じ。全然(ぜんぜん)()わってない。()えない(ぶん)(むかし)より(わる)くなってるよ。

 ―差別(さべつ)問題(もんだい)は、運動(うんどう)成果(せいか)状況(じょうきょう)(すこ)()くなると()えにくくなってしまう…。

 その(てん)(こわ)いね。(むかし)のようにはっきり拒否(きょひ)されたほうが、いいと(おも)うんだよね、ぼくなんかは。ケンカもしやすいしね。中途半端(ちゅうとはんぱ)にねちねちとされるのが、いちばんかったるいよね。

 がんばらないは、自分(じぶん)()ること 

 ―宇宙塵(うちゅうじん)さんの()にある「頑張(がんば)らないは、自分(じぶん)()ること」(8(ぺーじ)参照(さんしょう))というのは?

 (おや)から、養護(ようご)学校(がっこう)から、「がんばれがんばれ」と教育(きょういく)されてきて、自分(じぶん)がなかった。()えなかった。本当(ほんとう)自分(じぶん)がどうしたいのか、どう()きたいのか、本当(ほんとう)自分(じぶん)()っていくこと。なんか、「がんばれ」という言葉(ことば)に、自分(じぶん)(あざむ)いているようなところがある。本当(ほんとう)はがんばりたくないと(おも)うんだよ、みんな。本音(ほんね)のところでは。でも、「がんばれがんばれ」って()われるとがんばらないといけない、と。勇気(ゆうき)あるよ、がんばらないと()うことは。勇気(ゆうき)があると(おも)うんだ。

 ―みんなががんばってるなか「(わたし)はがんばりません」と()ったら・・・。

 もう、のけ(もの)(あつか)いだよ。

 ―それは反社会的(はんしゃかいてき)なことなんでしょうかね?

 反社会的(はんしゃかいてき)なんておかしいよね。がんばらないと()える社会(しゃかい)をつくってこなかったわけだよ、みんなが。がんばらないと()える社会(しゃかい)であれば、どれだけ(ゆた)かな(こころ)ができるか。どれだけ安心(あんしん)できる()どもとか大人(おとな)がいるだろう。

 ―(いま)はみんな(つね)背中(せなか)()されているようで、余裕(よゆう)がない。

 (つか)れちゃうよ((わらい))。(いま)は、なんのためにがんばっているのかがわからなくなってる。

 この(あいだ)(おも)ったのはね、今中(いまちゅう)高年(こうねん)がクビを()られて仕事(しごと)がないわけ。どこに()っても仕事(しごと)がない。あれを()ててね、ふとぼくの(わか)(ころ)(おも)()したわけ。職安(しょくあん)()っても仕事(しごと)がないんだよ、ぼく。(なん)万回(まんかい)()っても、ね。あの(ころ)はすぐ仕事(しごと)()つかったわけね、経済(けいざい)成長(せいちょう)で。(いま)は、仕事(しごと)がないと。あれ()てね、今度(こんど)健全者(けんぜんしゃ)(ばん)(もど)ってきたのかなと(おも)った。ざまあみろとは(おも)わないけど、なんでぼくらが(わか)いときに()つからないのか。そういう社会(しゃかい)をつくってきた責任(せきにん)がまわってきてるんだと(おも)う。ぼくたち(しょう)がい(しゃ)をはじいてがんばってきた結果(けっか)がこれだ。(いま)さら(あわ)ててもね、もう(おそ)いよ((わらい))。 それでも、()っていかないとね。(おな)じように(おも)ってる(ひと)はいるから。                
                                               
                                                              

宇宙塵●うちゅうじん
本名(ほんみょう)福田(ふくだ)(みのる)神奈川(かながわ)県立平塚(けんりつひらつか)養護(ようご)学校(がっこう)卒業後(そつぎょうご)職業(しょくぎょう)訓練(くんれん)学校(がっこう)()て、脳性(のうせい)マヒ(しゃ)グループ「(あお)(しば)(かい)」に出会(であ)い、(しょう)がい(しゃ)運動(うんどう)(おこな)う。
現在(げんざい)は、(しょう)がい(しゃ)健全者(けんぜんしゃ)合同(ごうどう)のパントマイム劇団(げきだん)湘南亀組(しょうなんかめぐみ)団員(だんいん)()などを(ふく)執筆(しっぴつ)活動中(かつどうちゅう)。と、ここまで()いて疑問(ぎもん)()いてきた。(いま)まで何気(なにげ)なく()いてきた経歴(けいれき)だが、じゃ、それがなんなの?と。大事(だいじ)なことは現在(げんざい)自分(じぶん)がどんなことを(おこな)い、(なに)(かんが)えているのかであって、経歴(けいれき)云々(うんぬん)判断(はんだん)されるのは、どうも釈然(しゃくぜん)としないものが(ぼく)(こころ)(のこ)った。

                   
   

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