まねき猫通信47ひきめ(2006年6月16日発行)
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トリの眼・ムシの目・ニャンコの目 (巻頭コラム)
北海道、といってもくま無く歩いたわけではないが、札幌や旭川、網走などで人々の電話の会話を聞いていると「もしもし、○○さんですか? 私××でした。ご無沙汰しております…」などというのを耳にする。「〜でした」という言い回しが、実に優しいのだ。「です」の過去形ではなく「呼び出し音が鳴って、誰かなと思ったでしょう? 実はこの私だったんですよ〜」という意味。相手の動きを見守っていたかのような「時差を利用した謙り」が心地よい。
九州も、全域くま無く歩いたわけではないが、福岡や大分、長崎などで「あのですね…」という間投詞をよく耳にする。「あの」+「ですね」などという丁寧形は、関西弁ではどうしても無理だ。
謙譲語と尊敬語の用法や区別が現代日本語から急激に剥離・退化していることは、二言を要さない。客に向かって「以上で。」と言い放つ店員、「私のご質問に答えてないじゃないですか!」と怒る国会議員、はたまた、「患者様」という気持ち悪い言い回し…等々。
近代の国民国家は、方言を蔑視し弾圧した。いま標準語が危機に瀕しているのは、その竹篦返しだろう。いくら「美しい日本語を声に出して読もう」と啓蒙しても、「人間らしい言葉」は絶対に回復しないのだ。(パギ)